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「防音」という言葉は、空気中を伝わる音を遮断することで反対側への透過を防ぐ「遮音」、音のエネルギーを振動や熱エネルギーに変えて反射を防ぐ「吸音」、他にも防振や制振などがあり、防音はこれらの総称とされています。
ここでは、簡単に手に入る耳せんやイヤーマフといった防音保護具の防音性能について説明します。
防音保護具の防音性能を示す数値としてNRRやSNRというものが一般的です。
NRR(Noise Reduction Rating)は、アメリカのEPA(Environmental Protection Agency、アメリカ合衆国環境保護庁)で規定されている防音性能であり、単位はデシベル(dB)です。NRRは耳せんやイヤーマフ等の防音保護具を装着した時に、98%の人がこの値以上の防音効果を得られるというものです。騒音減衰評価値や騒音減衰量と呼ばれています(騒音の部分はノイズになることもあります)。ただ、最近ではこの評価値と実環境での効果とに乖離があるとして、評価基準を見直す動きがあります。
製品によってはSNR(Single Number Rating)という表記(または併記)がありますが、これは欧州連合(EU)で採用されている規格です。
NRR、SNRともに数値が高いほど防音性能が優れていることを示します。主な違いは、NRRが2標準偏差で算出されるのに対して、SNRは1標準偏差で算出されることです。そのため同程度の製品であればSNRの数値がNRRより大きくなります。NRRはカナダを含む北米で採用されていますが、それ以外はSNRが一般的という意見もあります。日本ではNRRの表記が多いようです。
例えば、80dB(飛行機の機内など)の騒音下で、NRR30dBの耳せんやイヤーマフを使うと、約98%の装着者が50dB以下(80dB−30dB)の音量に感じるような効果を期待できます。と言われていますが、実際には装着方法により大きな差がでます。あくまでも正しく装着できた時の目安と考えておけばよいと思います。
NRRやSNRですが、単純にこの数値が高ければ防音性能が優れているとは言えません。以下のグラフのように音には周波数があり、周波数により防音性能は変化します。
このグラフはあくまでサンプルであり目安です。多くの音を点で示していますが、音には複数の周波数が混ざるため純音というわけではありません。人間の可聴域は20Hz〜20,000Hzですが、加齢に伴い高周波域が聞こえにくくなります。一時期ニュースで取り上げられたモスキート音(17,000Hz)が分かりやすいと思います。地デジ化に伴い経験することはなくなりましたが、ブラウン管テレビが点いている時に感じる「ブーン」という音は約16,000Hzです。
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下の表はある耳せんとイヤーマフの防音性能を周波数ごとに示しています。製品によっては外箱や内包されている説明書等に記載されています。また、メーカーサイトにデータシート(仕様)が公開されている製品もあります。
周波数(Hz) | 125 | 250 | 500 | 1000 | 2000 | 3150 | 4000 | 6300 | 8000 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平均遮音(dB) | 34.3 | 35.3 | 36.8 | 34.7 | 35.5 | 40.5 | 37.5 | 40.3 | 44.4 |
標準偏差(dB) | 4.1 | 4.4 | 5.1 | 3.1 | 3.4 | 3.7 | 3.8 | 6.2 | 3.8 |
A社の耳栓の防音性能
周波数(Hz) | 125 | 250 | 500 | 1000 | 2000 | 3150 | 4000 | 6300 | 8000 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平均遮音(dB) | 21.8 | 26.6 | 31.8 | 35.2 | 32.9 | 37.7 | 37.6 | 39.1 | 39.6 |
標準偏差(dB) | 3.2 | 3.1 | 2.5 | 2.1 | 2.1 | 2.4 | 2.2 | 2.4 | 2.6 |
ともに同じNRR30dBの製品ですが、この表を確認すると周波数により得手不得手があることが分かります。
表の読み方を説明します。各周波数ごとの平均遮音値(減衰量、減衰率、遮音度とも)を示しています。この表により高い音(高周波数)と低い音(低周波数)とで、その防音保護具の詳細な性能が分かります。標準偏差は防音保護具の性能のばらつきを示しています。
例えば、耳栓の500Hzで考えると平均遮音値が36.8dB、標準偏差が5.1dBとなっています。標準偏差を考慮して性能を算出すると、500Hzでの減音量は、36.8±5.1dBとなり、製品の約68%が31.7dB〜41.9dBの防音性能を持つことになります。さらに、約95%(2標準偏差:±2×5.1)の製品が26.6dB〜47dBの防音性能を持つことが分かります。このように標準偏差が小さいほど製品の性能にばらつきがないことになります。
標準偏差が小さいほど製品の性能にばらつきがないことになり、同じ平均遮音値であれば標準偏差の小さいイヤーマフが防音性能が優れている可能性が高いということになります。
この図は、上記の耳せんとイヤーマフの遮音値をグラフ化したものです。
耳せんが低高域にわたり防音性が安定していて、イヤーマフは低音に弱いことが分かります。これだけ見ると、同じNRRなら耳栓が優れているように思えますが、イヤーマフは標準偏差が小さく防音性が安定していること、また、取り付け取り外しが簡単なので頻繁に装着したり外したりする使い方ならイヤーマフにメリットがあります。
耳せんはデータ的に低音にも強いかもしれませんが、音を防げても低周波振動といった体に感じる不快感は防ぐことはできません。そこはイヤーマフも同じです。
このように同じNRRやSNRであっても、音の種類(周波数)によって防音性能に差があることをデータシートから読み取れます。
日常生活で2,000Hzを超える音は十分に高い音と言えます。例えば女性の高めの声や赤ちゃん鳴き声です。NRRには3,000Hzを超える周波数の評価も行われていますが、例えば4,000Hzから5,000Hzだとセミが最高にうるさく泣いているイメージです。それ以上であれば、歯科医のドリル音や鈴虫やコオロギの鳴き声ななどが分かりやすいと思います。そういう音は日常生活ではかなり特殊な音といえるので、日常的な生活騒音を防ぐのであれば2,000Hzまたは3,000Hz以下の音に対する防音性能を重視するとよいでしょう。
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